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東京高等裁判所 平成10年(行コ)92号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  本件各訴えのうち、控訴人らの被控訴人野木町長に対する平成五年度の固定資産税に関する違法確認請求及び被控訴人金沢豊に対する同固定資産税に関する損害賠償請求に係る各訴えをいずれも却下する。

三  被控訴人野木町長が大草良一に対し原判決別紙物件目録二記載の土地につき平成六年度から平成八年度までの固定資産税の賦課及び徴収を怠ったことがいずれも違法であることを確認する。

四  控訴人らの被控訴人金沢豊に対するその余の損害賠償請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人らに生じた費用の二分の一と被控訴人野木町長に生じた費用を被控訴人野木町長の負担とし、控訴人らに生じたその余の費用と被控訴人金沢豊に生じた費用を控訴人らの連帯負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人野木町長が、大草良一に対し、原判決別紙目録一記載の土地につき平成五年度の固定資産税の徴収を怠ったこと及び原判決別紙物件目録二記載の土地につき平成六年度ないし平成八年度の固定資産税の賦課及び徴収を怠ったことが違法であることを確認する(平成六年分から平成八年分の固定資産税に関する部分は、主文第三項と同旨。)。

三  被控訴人金沢豊は、野木町に対し、六〇一万九九〇〇円及びこれに対する平成九年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  仮執行宣言(右第三項について)

第二  事案の概要

一  次の二のように原判決に対して訂正、付加し、三から五までのように当審における当事者双方の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」(原判決二頁八行目から一四頁二行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  原判決に対する訂正、付加

1 原判決二頁八行目の「栃木県下都賀郡野木町(以下「野木町」という。)」を「野木町(栃木県下都賀郡)」に改める。

2 同三頁一行目の次に改行して次のとおり加える。

「原審裁判所は、本件各訴えのうち平成五年度の固定資産税に関する怠る事実の確認請求(被控訴人町長に対する請求)及び損害賠償請求(被控訴人金沢豊に対する請求)に係る部分は、監査請求期間徒過について正当な理由がなく、適法な監査請求を経たものとはいえないとして、これらを却下し、その他の平成六年度以降の固定資産税に関する請求は、その固定資産税について課税免除をしたことに違法とすべき点はないとして、これらをいずれも棄却した。

そこで、これを不服として控訴人らが控訴をしたものである。なお、控訴提起後四名(伴光夫、横田浩、酒井英雄、谷内田文英)が訴えを取り下げ、一名の控訴人(坂井鈴馬)が死亡したので、控訴人は頭書記載の一四名となった。」

三  当審における控訴人らの主張

1 野木町税条例七二条一項について

原判決は、野木町税条例七二条一項二号及び四号は、課税免除の趣旨をも包括して規定したものとしているが、この解釈は誤りである。

地方税法において、固定資産税の減免(同法三六七条)と地方税の課税の免除(同法六条一項)とは概念として截然と区別されており、条例の一つの条項に両者が包括的に混在しているなどとみなすことは不可能である。同条例七二条一項は、「固定資産税を減免する」と定めており、二項及び三項とも併せ考えると、同条例七二条一項はもっぱら「固定資産税の減免」について定めたものというべきである。したがって、被控訴人町長は、野木町税条例に課税免除を定めた規定が存在しないにもかかわらず、本件賃貸借契約の対象となる土地(原判決に摘示されているとおり、その範囲には変遷があるが、以下においては、この土地を包括的に「本件土地」という。)の固定資産税の徴収を怠ったことによって町財政に税額相当の損害を与えたのである。

2 手続が履践されていないことについて

税の減免、課税免除のいずれであるにせよ、その行政行為によって恩典を受ける者からの申請行為が前提要件として定められている場合には、これを欠く当該行政行為は明白に違法というべきである。町教育委員会教育長半田元信名義の「野木町町民ホール(仮称)用地借用に係る税制上の取り扱いについて(依頼)」と題する文書は、町の機関である教育長による内部的な依頼文書に過ぎない。

なお、右文書については、当初からは存在していなかったのではないかとの疑念が払拭できない。

3 有料で借り受けた固定資産に対する課税について

野木町税条例六〇条は、地方税法三四八条二項ただし書を受けて、「固定資産を有料で借り受けた者が、これを法第三四八条第二項に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所有者に対し、固定資産税を課する。」と明記し、同条例七二条一項二号は「公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)」としており、有料で使用する固定資産を固定資産税の減免の対象から明確に除外している。したがって、本件土地は野木町税条例上固定資産税の減免の対象にはならない。

よって、被控訴人町長には、本件で問題となった各年度分について野木町税条例に基づき固定資産税を賦課徴収する義務があったが、同被控訴人は右固定資産税の賦課徴収をしていないから、同被控訴人には、地方自治法二四二条、二四二条の二に規定する「公金の賦課徴収を怠る事実」が存在する。

4 野木町税条例七二条一項四号について

原判決は、平成六年度以降の課税免除が野木町税条例七二条一項四号を根拠としてされたものであるとし、「特別の事由」があるとした被控訴人町長の判断に裁量権の逸脱がない限り、違法の問題は生じないとしている。

しかし、課税免除については、そもそも規定が存在しないが、その点をさておくとしても、地方税法六条の枠組みを外すことはできないし、減免としても、貧困等のため納税義務者に担税力がない場合(野木町税条例七二条一項一号)や災害等で価値を著しく減じた場合(同条項三号)等と同等の特別な事由の具備が必要である。本件にはこのような事由はないから、課税免除をすることは明らかに違法である。

5 地方自治法二四二条二項の期間制限について

本件においては、原判決のいう財務会計行為に相当する行為は「秘匿」されていた。このような「秘匿」が認められる場合には、それだけで「正当な理由」があるとされるべきである。

平成五年第二回定例野木町議会における執行部の答弁では本件土地の固定資産税の扱いは検討中ということになっていたが、被控訴人町長は、その後税の減免等について敢えて報告するなり公表することをしないばかりか、それが問題化してもその資料の開示に容易に応じなかった。これこそ「秘匿」である。

現実にも、控訴人らが本件土地の固定資産税の減免等の事実を把握できたのは平成八年九月の議会における論議の時であるから、本件においては「正当な理由」があり、地方自治法二四二条二項ただし書の期間はこの時から起算されるべきである。よって、控訴人らの本件監査請求は適法である。

6 平成六年度分以降の課税免除について

(一) 被控訴人らは、平成六年度分以降の固定資産税の課税免除自体あるいはこれに先立つ本件賃貸借契約締結自体が「処分」であり、地方自治法二四二条一項に定める財務会計行為に当たるから、これについても監査請求期間が適用されるべきである旨主張する。しかし、具体的租税債権が成立していない時点において、これを免除する措置を想定するのは理論的に無理である。

(二) 仮に、被控訴人らの右主張を前提としても、右5のとおり、地方自治法二四二条二項の監査請求期間の適用は同項ただし書の「正当な理由」の存在によって排除されるべきである。

7 本件措置による損害の発生の有無について

(一) 本件土地は、熾烈な誘致合戦の後に対象地に選ばれた土地であり、本件賃貸借契約の賃料一平方メートル当たり月額五四円(以下、賃料に関する金額は、特にことわらない限り一平方メートル当たりの金額である。)は、農地として利用する限り実現不可能な収益金額である。したがって、本件措置を取らなければ野木町文化会館の用地の借受けが不可能であった事情は存在しない。

(二) 被控訴人金沢は損益相殺を主張する。しかし、この主張は、固定資産税額と本件賃料とを合算した金額が本来の賃料と仮定することによって成り立つが、この仮定は本件賃貸借契約とは無縁の仮想であり、野木町税条例とも符合しない。現実の賃料から本来賦課されるべき固定資産税額(課税差額)を控除した金額も、本件土地としては相当多額の不動産収入といえる。また、被控訴人らが援用する適正賃料の評価額は、期待利回りに四・二パーセントを採用しているなど、到底合理的なものではない。

(三) よって、本件においては、違法な本件措置により野木町が本来徴収すべきであった固定資産税の合計額六〇一万九九〇〇円(被控訴人町長の主張によれば五七七万三一〇〇円)相当額の損害が存在する。

四  当審における被控訴人町長の主張

1 本案前の抗弁について

(一) 被控訴人町長の本件措置の法的性質は、平成五年度については既に賦課した固定資産税の免除であり、平成六年度以降については固定資産税の課税免除である。被控訴人町長が平成六年度以降の固定資産税を賦課及び徴収しなかったのは、右固定資産税の課税免除という「処分」を行ったからであり、同賦課徴収をしなかった事実が「怠る事実」か否かを決するには、同「処分」の違法の有無を問題とすべきである。そして、右「処分」は、野木町の大草に対する平成六年度以降に具体的に発生する本件土地についての租税債権の事前放棄であり、地方自治法二四二条にいう財務会計行為に該当する。

(二) 仮に、平成六年度から平成八年度までの課税免除の措置が、怠る事実としてのみ争い得るに過ぎないとしても、被控訴人町長は大草との間で、賃料を純賃料として定め、固定資産税を平成五年分は免税し、平成六年度以降分については課税免除することを合意したものであるところ、同契約締結は地方自治法二四二条一項に規定する契約の締結にほかならず、財務会計上の行為である。したがって、同契約の違法性確認を争うことが可能となるが、本件で主張されている怠る事実は、同契約の締結を当然の前提とするものであるから、同契約の違法性確認によって控訴人らの目的は達成されるものである。

したがって、同契約の締結時を基準として期間制限を適用せざるを得ない。

(三) 野木町において免除の存在及び内容が秘匿された事実は全くなく、住民にとっても、相当の注意力をもって調査したときには、遅くとも平成六年三月には免除の存在及び内容を知ることができたから、本件で地方自治法二四二条二項ただし書の「正当な理由」があるとはいえない。

(四) よって、平成六年度から平成八年度までの固定資産税の賦課徴収をしなかった不作為の違法確認請求に係る訴えも却下すべきである。

2 野木町税条例七二条の解釈について

(一) 野木町税条例六〇条は、地方税法三四八条二項ただし書の場合には課税する旨定めた規定ではあるが、有料借受けの場合には性質上当然非課税とすべき定型的固定資産を非課税と定めた地方税法三四八条二項に基づいて非課税とはしない、という規定であるに過ぎず、有料借受けの場合に同法六条に基づく課税免除ないし不均一課税を他の条例の規定でもって定めることまで排除したものではない。けだし、「公益上その他の事由により課税を不適当とする場合ないし不均一課税を適当とする場合」は、性質上当然に非課税とすべき定型的な場合に限らず、個別的な公益上その他の事由でもって非課税ないし不均一課税を適当とする場合もあり得るからである。本件はまさに個別的に公益上その他の事由による事例である。

(二) また、野木町税条例七二条一項二号のかっこ書も、地方税法三四八条二項ただし書と同様の規定形式であって、有料で使用する場合には同号本文の定型的事由の場合を除いたまでであり、個別的な公益上その他の事由によって減免ないし課税免除をすることまで規定したものと解することはできない。

3 賃借土地面積、課税差額の変遷について

(一) 本件賃貸借契約の対象土地の面積及び当該期間における固定資産税の課税面積並びに同税を免除した場合と課税した場合の課税差額の変遷は、別紙「変遷一覧表」のとおりである。なお、借地面積の変遷は次のとおりである。

(1) 原契約の借地面積は一万三七五六平方メートルであった。

(2) これを平成五年一〇月一日付け変更契約によって、借地面積を一万三五五九平方メートルに変更した。

(3) さらに、平成八年五月二〇日付け変更契約によって、借地面積を一万三四八〇平方メートルに変更した。

(二) 野木町は、大草との間で、本件土地の平成五年度分の固定資産税は免除し、平成六年度分以降は課税免除をすることにして、賃料は純賃料月額五四円とすることに合意したものである。

したがって、もし、野木町が本件非課税措置をとらなかった場合には、同町が支払うべき賃料は、現実に支払った賃料額に課税した場合の差額年税額(課税差額)を加算した金額になるから、その金額は別表「変遷一覧表」の「課税した場合に支払うべき賃料」欄記載のとおりとなる。

(三) 本件賃貸借契約の契約書(乙第六号証)の八条は、「本件に対する公租公課その他一切の賦課金は乙(大草)が負担するものとする。」と規定しているが、この規定は、契約書作成上の過誤によるものである。すなわち、当初交渉段階においては、本件土地に固定資産税を課税して、同税額相当分を純賃料に上乗せして支払賃料とすることで契約書案文を現契約書八条のとおりとしていた。その後非課税措置が可能であることが判明したことから、純賃料のみを賃料にすることになったが、本件土地が宅地化することによって将来生じる相続税の高額化に対する補償問題が再燃すること(大草からの補償要求は、賃料額で調整することにして解決した。)を防ぐ趣旨で、同契約書八条を当初案文どおりにして契約書を作成したものである。

五  当審における被控訴人金沢の主張

1 本案前の抗弁について

原判決は、平成六年度から平成八年までの固定資産税の課税免除を認定しながら、監査請求期間の適用はないとする。

しかし、課税前といえども、単に期限が到来していないだけであるから、課税前の租税債権も地方公共団体の「財産」と解すべきである。課税免除は、このように期限到来により具体的に発生する租税債権の免除理由が消滅するまでの間の一括事前放棄であると解されるから、財務会計行為であり、監査請求期間の制限に服する。

また、本件について地方自治法二四二条二項ただし書の「正当な理由」はないから、控訴人らの訴えはその全部が却下されるべきである。

2 野木町税条例七二条について

野木町税条例六〇条の規定は、地方税法六条に基づく課税免除ないし不均一課税までも排除するものではない。すなわち、公益上その他の事由により課税を不適当とする場合(地方税法六条一項)とは、性質上当然に非課税とすべき定型的な場合(同法三四八条二項)に限らず、個別的な公益上その他の事由で非課税とすることが適当とされる場合もあるのであり、本件はまさにこれに該当する。野木町税条例七二条一項二号の規定は、有料借受けの定型的な場合を除外したものであり、四号の特別な事由がある場合においては、個別的な公益上等の理由による課税免除が排斥されるものではない。

3 損益相殺について(予備的主張)

(一) 本件賃貸借における土地面積、賃料等の変遷は、被控訴人町長の主張のとおりである。

大草との間では、賃料を本件土地に対する固定資産税を除いて月額五四円と合意したのであり、純賃料を右の額とすることは、平成五年度の予算審議の際にも問題とされずに承認された。

(二) 被控訴人町長の本件課税免除措置が仮に違法だとした場合、<1>右措置をとったことによる同町の損害と、<2>右措置をとらなかった場合に必要とされる本件土地の使用の対価の支払を免れたという同町が得た差引利益とは対価関係にあり、また両者間には相当因果関係があるから、両者は損益相殺の対象となる。本件においては<1>の損害は免除・課税免除した「固定資産税額」であり、<2>の差引利益も「固定資産税相当額」であって、両者は一致するから、損害はないというべきである。

これを適正賃料の点からみれば、本件賃貸借における適正地代は、月額六六・七円程度、固定資産税を含まない純賃料では月額六〇・一円程度である。仮に本件措置が違法であったとすれば、これによる損害は月額六・六円程度であり、他方、同措置をとらなかった場合に必要とされる本件土地の使用の対価は右適正地代の月額六六・七円であって、同額の支払をすることを免れたという同町が得た差引利益は一平方メートル当たり月額一二・七円(六六・七円から実際の地代月額五四円を控除した額)程度であったというべきである。また、本件土地に課税された場合の税額は、平成六年度においては年額一七九万五八〇〇円(一平方メートル当たり月額一一・〇円)、平成七年度において年額一九三万〇四〇〇円(一平方メートル当たり月額一一・八円)、平成八年度において年額二〇二万六九〇〇円(一平方メートル当たり月額一二・五円)である。

このように、差引利益月額一二・七円は、損害の額(月額六・六円又は月額一一・〇円から一二・五円)を下回るものではないから、同町においては結局本件課税免除措置をとったことによる損害はないのである。

第三  当裁判所の判断

一  平成五年度の固定資産税に関する被控訴人町長に対する違法確認請求及びこれに関する被控訴人金沢豊に対する損害賠償請求に係る各訴えについて

当裁判所も、本件訴えのうち、被控訴人町長に対する平成五年度の固定資産税に関する違法確認請求及び被控訴人金沢豊に対する同固定資産税に関する損害賠償請求に係る各訴えは、不適法として却下を免れないものと判断する。その理由は、次のように加除、訂正するほか、原判決がその「事実及び理由」欄第三「当裁判所の判断」の一から七まで(原判決一四頁四行目から二五頁三行目まで)において説示するところと同一であるから、これを引用する。

(原判決に対する加除、訂正)

1 原判決一六頁四行目から一八頁一行目までを次のように改める。

「二 そこで本件についてみるに、第二「事案の概要」の一「争いのない事実」記載の事実に、《証拠略》を併せると、次の事実が認められる。《証拠判断略》

1 平成四年に野木町町民ホールの建設場所が大草所有の本件土地に決定された後、企画財政課長荒井武雄や当時の助役が大草との同土地賃借の交渉を担当することになった。賃料については、すでに出されていた不動産鑑定士の意見や同課内における試算をもとに、荒井らは賃料として月額五四円に固定資産税相当分を上乗せするという腹案をもって交渉に臨んだが、具体的な数字を提案する前に、大草から、当時農地であった本件土地が宅地化すると、将来自分の相続人が高額の相続税を課されるから、その補償分として五〇〇〇万円の協力金を支払ってほしい旨の要望が出された。そこで、荒井らは、五〇〇〇万円の協力金支払は了承することとし、その代わりに、建物敷地部分の純賃料を月額五四円とし、駐車場予定地部分の純賃料を月額三六円とする案を作成し、大草に提案して了承を得た。

2 そこで、野木町では、本件土地について仮契約を結んでその引渡しを受け建設工事に着手すべく、大草から了承を得た右の案に基づき平成五年一月から三月までの三か月分の賃料、協力金五〇〇〇万円、固定資産税額相当分(右三か月分)を積算し(合計額は五一八九万七〇〇〇円)、これを平成四年度補正予算案に組み込んで議会に提出することになった。ところが、町の担当者において、平成四年一二月一〇日、慣例とされている町議会の全員協議会に事前にこれを諮ったところ、協力金として五〇〇〇万円を支払うことに対して強い異論が出され、右の補正予算案が成立する見込みが立たなくなったので、この部分を補正予算案から削除せざるを得なかった。

3 そこで、荒井らが大草と改めて賃貸借の条件について交渉を行った結果、協力金の支払はしない代わりに、駐車場部分も月額五四円の賃料とすること、固定資産税相当額を上乗せすることは従来どおりとすることでようやく話がまとまった。町は、平成五年一月二〇日の全員協議会にこの案を諮り、同意が得られたので、本件賃貸借について月額五四円の純賃料に固定資産税相当額を加算した予算を平成五年度予算に計上して、これを同年三月一〇日から定例議会に提案した。すなわち、予算書においては、第九款「教育費」第四項「社会教育費」第五目「町民ホール建設費」中の「使用料及び賃借料」の箇所において「土地賃借料等」との説明の下に八九三万四〇〇〇円が計上されていたが、この金額は、本件賃貸借契約書記載の一平方メートル当たり五四円によって計算した賃料額に固定資産税相当額(約二万円)を加算した金額であった。

ところで、一月の全員協議会において、担当者である荒井らは、月額五四円は固定資産税を含まない純賃料額であり、これとは別に固定資産税相当額を支払うことになる旨を説明した。

また、三月一〇日の定例議会の会議において、議員から予算書の右「土地賃借料等」の「等」の意味について質問があったのに対し、荒井は、今回の予算案では以前説明したとおり、賃料として一平方メートル当たり月額五四円にプラスして本件土地の固定資産税相当額を支払い、その後賃貸人から当該固定資産税を支払ってもらう形をとっていること、固定資産税相当分が一万九九〇〇円であること、固定資産税については、減免という形で対応できるのではないかと考え、現在検討中であることを説明した。そして、同予算案は、同月一七日に可決成立した。

4 同年四月一日から、右町民ホールの建設に関する業務は教育委員会の社会教育課(以下単に「社会教育課」という。)が担当することになったが、そのころには、税務を所管する税務課の検討により、本件土地の固定資産税について野木町税条例七二条一項四号を適用して、減免が可能であるとの結論に達していた。社会教育課の担当者は、同月上旬大草を訪ね、本件土地の固定資産税については免除の方法をとりたい旨町の方針を伝え、大草もこれを了承した。

5 その後同月一二日に町と大草との間で本件土地についての賃貸借契約書が調印され、同月一三日、教育委員会教育長から被控訴人町長に対し「野木町町民ホール(仮称)用地借用に係る税制上の取り扱いについて(依頼)」と題する同月九日付けの依頼文書が提出された。

右依頼に対し、同月一五日、被控訴人町長から教育長に対し、「野木町町民ホール(仮称)用地借用に係る税制上の取り扱いについて(回答)」と題する文書が発せられ、同文書において、本件土地に係る固定資産税については平成五年度固定資産税分より免除する旨の回答がなされた。

6 これを受けて、同月下旬ころ、税務課職員の舘野が大草に電話し、本件土地の固定資産税の免除が正式に決定された旨連絡するとともに、平成五年分の固定資産税の免除について具体的には第二期分で調整したい旨申し入れたところ、大草もこれを了承した。

7 同年七月中旬、町から大草に対し、同月一五日付けの平成五年度固定資産税更正通知書及び納付書を送付した。同更正通知書においては、年税額が二万円減少し、その減少した分が第二期から第四期までの三期に割り振られており、納付書もこれに従った金額が記載されたものであった。

他方、平成六年度から平成八年度までの本件土地の固定資産税については、平成五年度分とは異なって、大草に対する関係では文書による通知等は全くされず、単にコンピュータに本件土地の課税標準の額としてゼロと入力する処理をしただけであった。したがって、これらの三年度分については、賦課処分もされていない。

8 平成六年度の予算書(平成六年三月の定例議会に提出。)においては、町民ホールの「使用料及び賃借料」については「土地賃借料」との説明の下に「八七八万七〇〇〇円」が計上され、前年度の「等」が削除されていた。右八九八万七〇〇〇円は、平成五年一〇月一日に改定された賃借面積一万三五五九平方メートルについて一平方メートル当たり月額五四円で計算した年額「八七八万六二三二円」の一〇〇〇円未満を切り上げた数字であるから、この予算は右の純賃料を支払うだけの予算であり、固定資産税相当額は計上されていないことになる。

この点については、町議会において特に問題とされることなく、右予算は、原案どおり可決された。

9 ところで、前記のとおり、平成五年度の予算では、大草に対し一平方メートル当たり五四円で計算した賃料額に固定資産税相当額を付加して支払うことを前提とする金額が計上されていたが、前記のとおり後に本件土地に係る固定資産税は免除することにしたことから、結局町は右固定資産税相当額を支出せず、同年度の決算において同金額を不用額に計上して処理した。

すなわち、平成五年度の決算書(平成六年九月の定例議会に提出。)における町民ホールの「使用料及び賃借料」の支出済額は八八五万〇〇六〇円、不用額は八万三九四〇円とされているところ、右八八五万〇〇六六円は一平方メートル当たり月額五四円の純賃料額のみの金額であり(平成五年一〇月一日から本件賃貸借契約における賃貸借の土地面積が従来の一万三七五六平方メートルから一万三五五九平方メートルに減少したことに伴い、前半六か月の賃料額は四四五万六九四四円、後半六か月の賃料額は四三九万三一一六円となって、この両者を加算すると八八五万〇〇六六円になる。)、不用額の八万三九四〇円は、賃貸借面積の減少に伴う純賃料の不用額六万三八二八円と固定資産税相当額約二万円(二万〇一一二円)とを加算した金額である。

この点については、右決算を審議する町議会において特に取り上げられることなく、右決算は原案どおり承認された。

以上のとおり認定することができるところ、固定資産税の免除ないし課税免除が事実上決定された後に作成された平成五年四月一日付け本件賃貸借契約書八条の「本件に対する公租公課その他一切の賦課金は、乙(大草)が負担するものとする。」との条項について、被控訴人町長は契約書作成上の過誤によるものである旨主張し、当審証人荒井もこれに沿う証言をしている。この点について荒井証人が証言するところは、それ自体としては了解しにくいものの、その他の証拠により、前記認定のとおり、当初は固定資産税相当額を加算した額を支払賃料額として予定していたが、契約締結前になって税の免除ないし課税免除が可能との判断に達したことから、それを前提として賃料としては純賃料月額五四円とする合意の下に契約書が取り交わされた事実経過を認めることができるから、この点に照らすと、荒井証人が証言するところもあり得ない訳ではないということができ、この点は前記認定を左右するものではない。」

2 同一九頁五行目の「平成六年度以降については、」の次に「その限りで」を加える。

3 同一九頁六行目の「すなわち」の次に「、行為の形態ないし租税法律関係の性質という点からすると」を加える。

4 同一九頁八行目の「いうべきである。」の次に「もっとも、その趣旨目的の点からみると、通常、地方税法三六七条の税の減免は、納税者の担税力の減少その他納税義務者個人の事情を斟酌して行われるものであるのに対し、同法六条の課税免除は、各種の政策目的、税負担の均衡等に着目してある程度画一的に一定の範囲の者に課税しないこととするものであるとされるから、この観点からすると、平成五年度以降の固定資産税を免除するとした被控訴人町長の措置は、平成五年度分も含め課税免除の性質を持つものであったと解される。しかし、平成五年度分の固定資産税については、平成六年度以降の分とは異なり、いったん現実に賦課された固定資産税の徴収を放棄する旨の明確な行為がされているから、行為の形式としては右のように解するのが相当である。」を加える。

5 同二二頁一〇行目の次に改行して次の説示を加える。

「しかし、当該財務会計行為の存在及び内容が秘密裡にされ又はことさら秘匿されていたといえない場合には、特段の事情のない限り、同項ただし書の「正当な理由」は存在しないと解するのが相当である。けだし、住民監査請求は、前記のとおり、住民に対し個人の権利義務にかかわりなく単に住民であるというだけの資格で監査請求を認め、もって地方公共団体の財務の適正に資することを目的とするいわゆる客観争訟の性質を持つものであるから、地方自治法二四二条二項の規定は、このような住民監査請求の性質を踏まえ、法的安定性を確保する上で速やかにこれを確定させることとしたものと解され、また、同条項は期間の始期を「当該行為のあった日又は終わった日」として個々の住民の知、不知にかからせていないのであるから、秘密裡にされたりことさら秘匿されたりすることなく通常の方法に従って事務処理がされた場合にまで期間制限が働かないとすることは、同条項の趣旨を損なうことになると解されるからである。」

6 同二二項末行から二四頁二行目までを削る。

7 同二四頁三行目から二五頁三行目までを次のように改める。

「六 前記二に認定の事実によれば、平成五年七月中旬に行われた平成五年度の固定資産税の免除に関し、平成四年に町民ホールの建設地が本件土地に決定され賃料額等の交渉が開始されてから右免除の一年余り後の平成六年九月の町議会における平成五年度の決算承認まで間の経過に照らすと、右免除が秘密裡にされたりその存在及び内容が秘匿されたりしていたような事情は認められず、右免除に関する事務処理は通常の方法に従って行われたものと認めるのが相当である。

すなわち、前記認定の事実によれば、平成五年三月の定例町議会において、現段階では純賃料に固定資産税相当額を付加して予算に計上し、大草に支払う予定であるものの、固定資産税については免除する方向で検討中である旨町の担当者が議会で答弁しているのであり、また、翌平成六年度予算には固定資産税相当額の支出が計上されておらず、平成五年度の決算においても純賃料のみが支出され、固定資産税相当額が不用額とされていたものであって、この後者の事情自体は予算書又は決算書に端的に顕れていないものの、特段右免除が秘密裡にされたりその存在及び内容が秘匿されていたような事情はうかがわれず、かえって平成五年三月の町担当者の答弁とも併せれば、住民において相当の注意力をもって調査すれば平成六年度の予算又は平成五年度の決算によってこれを知ることができたものと認められる。したがって、住民において相当の注意力をもって調査すれば、平成六年三月に平成六年度予算が町議会で可決されたころには、右免除の存在及び内容を知ることができたものと認めるのが相当である。以上の事情に照らせば、本件においては結局前記特段の事情は認められず、地方自治法二四二条二項ただし書の「正当な理由」は存在しないというべきである。

よって、本件各訴えのうち、被控訴人町長に対する平成五年度の固定資産税に関する違法確認請求及び被控訴人金沢に対する同固定資産税に関する損害賠償請求に係る各訴えは、適法な監査請求を経たものとはいえないから、いずれも不適法なものとして却下を免れない。」

二  平成六年度から平成八年度までの固定資産税に関する被控訴人町長に対する違法確認請求及びこれに関する被控訴人金沢に対する損害賠償請求について

1 平成六年度から平成八年度までの固定資産税の課税を免除することとした措置(以下便宜上これを「本件課税免除措置」ということがある。)は、前示のとおり、租税債権が成立する前にあらかじめこれを賦課しないものとしたものであり、その租税法律関係上も、本件土地が公益のために使用されるものであることを考慮したものと解されるから、地方税法六条一項の課税免除の性格を持つものと解される。そして、前示のとおり、このような課税免除を行うためには地方公共団体において条例の定めが必要であるところ、前記認定の事実によれば、被控訴人町長は本件土地については野木町税条例七二条一項四号に該当すると判断して平成五年度分以降の固定資産税を課税しない(免除する)ことにしたものであり、本訴においても、被控訴人らは同条一項四号により平成六年度分以降の「固定資産税の免除」は適法である旨主張している。

前示のとおり、地方税法六条一項の課税免除と同法三六七条の税の減免とは法律上種々の点で異なる性格のものであるから、これらを条例で定める場合には、法技術上は両者を区別して規定するのが適当であろうが、たまたまこの両者を同一の規定中に混在する形で規定したとしても、そのことだけで当該規定の効力が否定されるものではない。野木町税条例七二条一項一号及び三号はその規定の内容から右税の減免に関する規定であり、同条一項二号は右課税免除に関する規定と解するのが相当であるから、同条例はこの両者を「固定資産税の減免」という標題の下に渾然一体として規定していることになるが、そのこと自体によりこれらの規定の効力が影響を受けるものではない。

ところで、課税免除は、その性格上、一定の要件が具備された場合には当然に課税しないとの扱いをするのが通常であると解されるが、この課税免除をどのような形のものとするかは、各地方公共団体の決定し得るところであるから、課税免除要件を具備した旨の申請を課税免除の条件とすることも許されるものというべきである。野木町税条例七二条二項は、その性質が「税の減免」であるか「課税免除」であるかを問わず、同条一項各号のすべての場合に同条の「固定資産税の減免」を受けようとする者の申請を要求しているが、この規定は、このような意味において適法有効である。したがって、この規定が置かれた以上は、税の減免のみならず、課税免除の性質を持つものについても、右の申請がない限り同条の「固定資産税の減免」は行うことができないものというべきである。

この点について被控訴人らは、課税免除の性質を持つものについては申請は不要である旨主張する。しかし、その主張の趣旨が、課税免除についても申請を要する旨の規定があってもその場合には理論上申請は不要と解すべきであるというものであれば、その主張は右にみたとおり理由がない。もっとも、野木町税条例七二条二項の規定は、納期限前七日までに申請書等を提出することを求めているから、課税免除の場合には具体的な納期限が定まっていないものについても申請をすることになり、この規定は課税免除の場合には適合しないのではないかとの疑問が生じない訳ではない。しかし、同条項は、課税免除の性質を有する一定の申請がされた場合でも、当該申請は申請後七日経過以降に納期限が到来する固定資産税(将来成立するものも含む。)の課税免除を求めるものとして扱うことを定めていると解することができ、そのように解することによって税の減免の場合と統一的な解釈をすることができるから、課税免除の場合には申請は不要であるとの被控訴人らの主張は採用することができない。

2 以上の説示に野木町税条例七二条の規定を併せれば、同条一項に規定のある限りでは、申請に基づき課税免除をすることができ、この場合課税免除は行政処分としてされることが予定されているということができる。

そこで、これを本件についてみるに、前記認定の事実によれば、本件土地の所有者である大草から野木町税条例七二条二項の申請はされていない。本件においては、教育長から被控訴人町長に対し平成五年四月九日付けで本件土地に係る「固定資産税の非課税化」の依頼がされているものの、これは行政内部の連絡依頼文書であるに過ぎず、同条二項に基づく申請に当たるということはできない。また、前記認定のように、野木町教育委員会の社会教育課の担当者が平成五年四月下旬に大草に対し本件土地について固定資産税が免除されることが正式決定されたことを電話連絡したものであるが、同条二項により必要とされる大草の申請はされていないこと、その電話連絡は、平成五年分の固定資産税の免除について正式に後に文書で更正決定がされることを事前に連絡する目的も兼ねていたこと、同条の「固定資産税の免除」は行政処分として行うものであり、当然文書によって行うことが想定されていたと考えられることなどを併せると、この連絡が、同条例七二条により「固定資産税の免除」のために要求されている行政処分であったと解することはできない。

したがって、平成六年度から平成八年度までの固定資産税については、野木町税条例七二条の定める課税免除(「固定資産税の免除」)がされず、したがって、右各年度の固定資産税が成立しているにもかかわらず、賦課徴収がされない状態で推移しているものというべきであるから、控訴人らはこれを怠る事実として争うことができるとともに、期間制限に関し問題となるべき基礎となる財務会計行為は存在しないものというべきである。

したがって、右各年度の固定資産税に係る違法確認請求に係る訴えは、地方自治法二四二条二項の期間制限を受けないものというべきである。

なお、被控訴人町長は、本件賃貸借契約の締結時を基準にして期間制限を適用すべきである旨主張する。確かに、前記認定の事実に照らすと、本件賃貸借契約において固定資産税を免除することが合意されたものと認められるが、このような私法上の契約によって課税免除(野木町税条例七二条の「固定資産税の免除」)の効力が生じるものではなく、同条例七二条二項の申請に基づく被控訴人町長の「免除」の行政処分があって初めてその効力が生じるものであるから、本件賃貸借契約の締結時をもって右期間の起算点とすることはできない。

3 右各年度の固定資産税を賦課徴収していないことが違法であることの確認を求める請求の当否について

(一) 右にみたように、本件においては、これらの固定資産税の課税免除について野木町税条例七二条二項が要求する大草の申請もなく、また同条が必要とする課税免除の行政処分もされていないから、その他の点について検討するまでもなく、被控訴人町長がこれらの固定資産税を賦課徴収していないこと(本件課税免除措置)は違法な不作為というべきである。

(二) ところで、被控訴人らは、本件は野木町税条例七二条一項四号に該当する場合であるから本件課税免除措置は適法である旨主張する。この主張は、本件の場合には同条二項の申請は必要がないとの前提又は同項に定める申請があったとの前提に立つものと解されるところ、前示のとおりこれらの前提はいずれも成り立たないというべきであるが、その点を暫く措くとして、本件同条例七二条一項四号によって「固定資産税の免除」をすることができるといえるかどうかについて以下検討する。

この点について、被控訴人らは、同条例七二条一項二号の規定は有料借受けの定型的な場合を想定した規定であり、同号によって免除の対象から除外されている「公益のために有料で直接専用する固定資産」についても、四号の「特別の事由」がある場合においては課税免除(同条にいう「固定資産税の免除」)が許されると主張している。しかし、被控訴人らの主張するような趣旨を規定上表す場合には、同条一項二号の「有料で使用する場合を除く。」の次に「ただし、特別の事由があると町長が認めたときは、この限りではない。」というような、有料使用の場合にも例外があることを示す規定の仕方がされるはずである。しかるに、同条にはこれに相当する規定はなく、かえって、同条例七二条一項四号は「前各号に掲げるもののほか」と規定しているから、四号は一号から三号までの場合を除いたその他の場合で「特別の事由」がある場合に固定資産税を減免する旨の規定であると解するのが相当である。また実質的にもみても、このように解しないと、有料使用の場合にも町長の裁量によって広範囲に免除が可能となって、同条一項二号の趣旨を没却することになりかねず、公平で適正な行政の運営に支障が生じることが懸念されるから、被控訴人らの右主張は採用することができない。

よって、同条一項二号本文の「公益のために直接専用する固定資産」に該当するものであっても、それが有料で使用するものであれば、同条一項四号によって「固定資産税の免除」をする余地はない。本件土地は野木町が「公益のために直接専用する固定資産」ではあるものの、有料で使用するものであるから、同条一項二号かっこ書により固定資産税を減免することは禁止されており、同条一項四号によりこれを減免することはできないというべきである。

(三) ところで、本件においては、後記のとおり、損益相殺により野木町の被控訴人町長に対する損害賠償請求権は発生しないと解される。そこで、このように損害賠償請求権を発生させないような行為は地方自治法二四二条の二第一項三号にいう違法な怠る事実には該当しないのではないかとの疑問が生じ得る。

しかし、住民訴訟は、公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟(行政事件訴訟法五条)であり、これを通じて究極的には行政の適正化を図ることを目的とするものである。特に地方自治法二四二条の二第一項三号の怠る事実の違法確認請求においては、その訴訟形態からして、法規適合性の確保という点に大きな重点があると解される。本件においては、たまたま合意された賃料額の内容から損害が発生していないものの、被控訴人町長の本件課税免除措置は条例の明文の規定に反するものであり、その意味で法規に適合していない程度が軽微であるとはいえないし、町が土地を賃借する場合の合意賃料の内容も事例ごとに異なり得るから、常に本件のように損害がないという結果になるともいえない。そこで、このような右怠る事実の違法確認請求訴訟の趣旨目的と本件課税免除措置の態様等とを併せ考慮するならば、本件の被控訴人町長の不作為は地方自治法二四二条の二第一項三号の関係でも違法であり、控訴人らの右違法確認請求はこれを認容するのが相当である。

4 被控訴人金沢に対する損害賠償請求の当否について

(一) 前示のとおり、被控訴人町長が本件土地の平成六年度分から平成八年度分までの固定資産税を賦課徴収していないことは違法な行為(不作為)であり、この点について町長である被控訴人金沢には過失があると認められる。

そして、右各年度分の固定資産税が賦課徴収されていないのであるから、これにより野木町はこの金額に相当する損害を被っているものと認められる。

(二) しかし、前記認定のとおり、もともと本件賃貸借契約に至る交渉過程において、野木町と大草との間では、固定資産税相当額を除いた純賃料額を月額五四円とし、したがって契約上の賃料としては固定資産税相当額を加算した額とする旨の事実上の合意(平たく言えば、この合意は、固定資産税相当額は野木町が負担する旨の合意であるといえる。)が成立していたところ、その後野木町において固定資産税を免除する措置をとる方針を事実上決定したことを前提として、本件賃貸借契約においては純賃料月額五四円のみが契約上の賃料として合意されたものであった。賃貸人に対し固定資産税相当額を加算して賃料を支払う旨の私法上の合意は有効であるから、被控訴人町長による本件の「固定資産税の免除」の措置は、経済的にみれば、固定資産税相当額をいったん町が大草に支払い、同額を大草が町に固定資産税として納付するという金銭の流れを省略したという実質を有するものといえる。

そうすると、野木町は、右の「免除」の措置をとることによって、この措置をとらなかったならば大草に対し賃料として支払う必要があった固定資産税相当額の支払を免れたという利益を得たことになり、両者の間には相当因果関係があるから、両者は損益相殺の対象になるものというべきである。してみれば、野木町においては、本件課税免除措置をとったことによる損害はなかったということになる。

(三) よって、本件課税免除措置によって野木町の被控訴人金沢に対する損害賠償請求権は発生していないから、控訴人らの被控訴人金沢に対する損害賠償請求は理由がない。

第四  結論

以上の次第で、控訴人らの本件各訴えのうち、被控訴人町長に対する平成五年度の固定資産税に関する怠る事実の違法確認請求及び被控訴人金沢に対する同固定資産税に関する損害賠償請求に係る各訴えは不適法であり、控訴人らの被控訴人金沢に対する平成六年度から平成八年度までの本件土地の固定資産税に関する損害賠償請求は理由がないが、控訴人の被控訴人町長に対する右三年度の本件土地の固定資産税の賦課徴収を怠ったことの違法確認請求は理由がある。

よって、原判決は一部不当であるから、これを右のように変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 橋本昌純)

裁判官岩田好二は、転補につき、署名押印することができない。

(裁判長裁判官 原健三郎)

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